エージェントが年収交渉に動かないのは、頼み方が「動ける形」になっていないことが多いです。具体額を1つ、理由を2つ、そして「難しければ提示額で承諾します」の一文を添えると、動く余地が生まれます。
エージェントが動かない理由は2つあります。成功報酬の仕組みでは「決まること」が成果であること、そして交渉で決裂するリスクを嫌うことです。この2つを消す頼み方をすれば、担当者の立場でも動きやすくなります。
内定が出たあと、あるいはオファー面談の前に、エージェントに「もう少し上げてほしい」と言ったきり返事が曖昧な人向けです。年収の下限をまだ決めていない人は、頼む前にそこから始めます。
私の場合、年収の下限を決めないままエージェントとの初回面談に臨みました。「希望年収は」と聞かれ、その場で考えた額を答えたところ、後日届いた提示額はその額のままでした。エージェントが交渉してくれなかった、というより、交渉する材料を私が渡していませんでした。間に人がいても、年収の出発点は自分でした。書類も含めて二桁落ちたあと、1社に決まった過程で分かったことを書きます。
エージェントが年収交渉に動かない理由は2つ
「してくれない」と感じたとき、担当者の怠慢だと考えると答えが出ません。仕組みの側から見ると、動かない理由は2つに絞れます。
理由1。成功報酬では「決まること」が成果になる
転職エージェント(有料職業紹介事業者)の費用を出すのは企業側です。職業安定法では、有料職業紹介事業者は原則として求職者から手数料を受け取ってはならないと定められています(出所: e-Gov法令検索「職業安定法」第32条の3。2026年9月時点。条文はご自身でも確認を)。裏を返せば、担当者の成果は「入社が決まること」で計られます。年収を上げる交渉は、決まる確率を下げる方向に働くことがあります。担当者にとって、交渉は成果に対するリスクです。
理由2。企業との関係が続くので、決裂を嫌う
候補者との関係は入社までですが、企業との関係はその先も続きます。「あのエージェントは毎回年収を吊り上げてくる」と思われることは、担当者にとって次の案件に響きます。だから、候補者から「上げてほしい」とだけ言われても、決裂の可能性がある交渉は、できるだけ避けたくなります。
この2つは、担当者の性格ではなく仕組みの話です。だからこそ、仕組みの側の不安を消す形で頼めば、動きやすくなります。「上げてほしい」の一言では、どちらの不安も消えていません。
新卒で入ったコンサルティング会社では、知らない業界の構造を短期間で調べ、相手が使っていない言葉で整理し直す仕事をしていました。20代のうちに投資会社へ移る過程で分かったのは、担当者がその領域を知らないと、交渉の材料そのものが作れないということです。最初に登録した総合型のエージェントからは前職の延長にあたる求人ばかりが出てきて、金融・投資の領域に強い特化型に切り替えてから選考プロセスの説明が具体的になりましたが、それでも私は書類の段階から落ち続けました。
私の場合。下限を決めずに面談に臨み、言った額がそのまま提示になった
私は初回の面談で「希望年収はいくらですか」と聞かれ、準備をしていなかったので、その場で現職とほぼ同じ額を答えました。
あとで気づいたのは、その額が担当者の手元で「本人の希望額」として固定されたことです。企業には、私が答えた額がそのまま伝わりました。内定後に届いた提示額は、面談で口にした額とほぼ同じでした。エージェントは何もしなかったのではなく、私が言った額を忠実に伝えていました。
ここで「交渉してくれない」と感じるのは筋違いでした。交渉の出発点になる数字も、その根拠も、私は渡していなかったからです。間に人がいても、最初の数字を決めるのは自分でした。在職中で時間がなく、面談を「登録の手続き」くらいに軽く考えていたことも、準備を飛ばした一因です。平日の夜と土日しか使えないときの回し方は在職中の転職活動を、平日の夜と土日だけで回すに書きました。
動いてもらうための伝え方。具体額・理由2つ・一文
頼み方を「動ける形」にする手順は3つです。
- 具体額を1つ言う — 「もう少し」「できれば上」ではなく、「年収○○万円でお願いしたい」と1つの額にします。幅で言うと、担当者は低いほうを企業に伝えがちです。
- 理由を2つ添える — 相場や気持ちではなく、自分の側の根拠にします。たとえば「現職の年収と、内定先で担当する範囲」「他社から受けている提示」の2つです。事実でないことは書きません。
- 「難しければ提示額で承諾します」の一文を添える — この一文で、決裂のリスクが小さくなります。担当者は「聞くだけ聞いて、だめなら決まる」状態になるので、企業に持っていきやすくなります。
3つを揃えた文面の例です。
「提示いただいた条件、ありがとうございます。前向きに考えています。1点だけ相談で、年収を○○万円にしていただけないか、企業側に確認をお願いできますか。理由は2つあります。現職の年収が△△万円で、内定先では担当範囲が広がること。もう1つは、他社から□□万円の提示を受けていることです。難しければ、提示いただいた額で承諾します。」
ポイントは、最後の一文です。動かない理由の1つ目(決まることが成果)と2つ目(決裂を嫌う)を、この一文が同時に薄めています。担当者は失うものが少なくなり、企業に「本人の希望として確認だけさせてください」と言いやすくなります。
ただし、この一文は書いた以上は守ります。提示額で承諾する気がないなら書きません。その場合は、下限をはっきり伝えて「下限を下回るなら辞退します」と書くことになりますが、決裂のリスクを担当者に負わせる頼み方なので、動いてもらえる余地は小さくなります。
私の場合、この形で頼めたのは、面談で額を固定してしまったあとでした。それでも「確認だけ」なら担当者は動いてくれました。結果がどうなるかは企業次第ですが、聞かずに終わるより、聞いて終わるほうが後悔は残りませんでした。
任せてよい場面と、自分で持つ場面
何を任せて、何を自分で持つかで分けると、年収交渉でも判断できます。
- 任せてよいこと — 企業への伝達。言うタイミングの調整。「この企業は年収の幅をどれくらい持っているか」「ほかの候補者はいるか」といった、自分では見えない情報。
- 自分で持つこと — 年収の下限。承諾するかどうかの判断。面接で「希望年収は」と聞かれたときの答え。この3つは、担当者に任せると、担当者の成果に有利な方向に寄ります。
とくに下限は、面談より前に自分で決めておきます。私は決めずに臨んで、その場で言った額が出発点になりました。任せていいことと任せてはいけないことの分け方は転職エージェントは使うべきか。任せていいことと、任せてはいけないことに書きました。
もう1つ、交渉のタイミングは内定後の提示から承諾までの間です。入社したあとで年収の話を持ち出しても、動く余地はほとんどありませんでした。応募前・面接・提示後の3段階での考え方は年収は、入社したあとでは上がらないに書きました。
エージェントに頼む前のチェック
送信する前に、次の項目を見ます。1つでも抜けていると、担当者は動きにくくなります。
- 年収の下限を、自分で決めてあるか
- 希望額は、幅ではなく1つの額になっているか
- 理由は2つあるか。どちらも事実か
- 「難しければ提示額で承諾します」を書くか、書かないか、自分で決めたか
- 承諾の期限を確認したか。期限が近いなら、その旨も添えたか
- 提示された条件(基本給・手当・賞与の内訳)を、書面で受け取っているか
- 面接で自分が言った希望額と、今回の希望額に矛盾がないか
面接で言った額より大きく上の額を出すときは、「面接時点では担当範囲を把握していなかった」のように、額が変わった理由も添えます。
よくある質問
エージェントを通さず、企業に直接言っていいですか
おすすめしません。エージェント経由の選考では、条件の窓口は担当者に一本化されています。本人が直接言うと、担当者の把握していない話が企業に届き、企業側も「どちらの話が本当か」と混乱します。担当者が動いてくれないときは、上の3つ(具体額・理由2つ・一文)を揃えて、もう一度担当者に頼みます。それでも動かなければ、「私から直接お伝えしてもよいですか」と担当者に断ってからにします。私の場合は、担当者に頼み直すところで足りました。
エージェントを使っていない場合、年収交渉はどうしますか
相手が人事担当者になるだけで、揃えるものは同じです。具体額を1つ、理由を2つ、そして提示額で承諾するかどうかの意思表示です。間に人がいない分、返事は早く来ます。伝えるのは内定後の提示から承諾までの間で、メールで書面に残る形が向いていました。
オファー面談で、年収の話はどこまでしていいですか
オファー面談は、提示条件の説明と質問の場です。その場で額の交渉をするより、「条件の内訳を確認したい」「持ち帰って検討したい」と伝えて、あとからエージェント経由で希望を出すほうが、担当者も企業も動きやすい形になります。面談の場で即答を求められたら、「承諾の期限までに返事をします」で足りました。
注意していただきたいこと
これは私1人の経験にもとづくものであり、うまくいくことをお約束するものではありません。効果や結果には個人差があります。企業の給与テーブルや、エージェントとの契約内容によって、動く余地はまったく変わります。職業安定法の内容は2026年9月時点のもので、ご自身の状況はエージェントの契約書か厚生労働省の案内で確認してください。
それでも、年収の下限は自分で決め、頼むときは具体額・理由2つ・一文を揃えるという一点は、やっておいて損がなかったと思っています。
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