年収交渉に他社の嘘は要らない。内定1社のときに持てる材料3つ

年収と市場価値

年収交渉に、他社オファーの嘘は要りません。盛った数字は、内定通知書の提示を求められた時点か、入社後に出す前職の源泉徴収票で食い違います。

内定が1社しかなくても、根拠にできる材料は3つあります。現年収の内訳、求人票に書かれた賃金の範囲、入社後の早い時期に貢献できる具体です。どれも手元にあるか、公開されているものです。

この記事は、他社の内定が無いまま提示額を受け取った人に向けて書きます。「複数社から評価をいただいており」と言えるかどうかも、最後に触れます。

私の場合、書類も含めて二桁落ちたあとに決まった内定は1社だけでした。他社の内定額というカードは最初からありませんでした。それなのに、無いカードの代わりに何を根拠にするかを考えないまま面談に入り、聞かれた場で「現状維持でも構いません」と答えました。提示額はその額で固定されました。材料が無かったのではなく、あった材料を使わなかった記録です。

他社オファーを盛ると、どこで食い違うか

他社の内定額を実際より高く言う、あるいは無い内定を有るように言う。これがどこで見つかるかを、先に書きます。

1つ目は、その場です。「差し支えなければ、他社様の条件が分かる書面をお見せいただけますか」と、内定通知書やオファーレターの提示を求められることがあります。出せなければ、その時点で話が止まります。出せても、社名や職種を聞かれて答えに詰まります。

2つ目は、入社後です。年の途中で転職した人の年末調整では、転職先が前職の給与額を「給与所得の源泉徴収票」で確認します(出所: 国税庁タックスアンサー No.2674 中途就職者の年末調整)。現年収を盛っていた場合、ここで数字が合わなくなります。他社オファーの嘘とは別の話に見えますが、「他社は◯◯万円を提示している。現職も◯◯万円ある」と2つを組み合わせて盛ると、同じ場所で崩れます。2026年9月時点の手続きです。ご自身の分は勤務先か国税庁の案内で確認してください。

3つ目は、断りきれなくなることです。「他社は◯◯万円です」と言った以上、その額に届かなければ辞退するのが筋になります。届かなかったときに承諾すると、金額で動く人だと見られたうえに、言ったことを引っ込めた人にもなります。私はこの3つ目を想像して、無いものを有ると言う選択は最初から外しました。外したのは正しかったと思っていますが、代わりの材料を用意しなかったのは、失敗でした。

内定が1社しかない人の材料3つ

私の内定は1社で、他社の提示は手元になく、盛ろうにも材料そのものがありませんでした。他社オファーの代わりに、何を根拠にするか。私が後から整理した3つです。

  1. 現年収の内訳 — 基本給、固定残業代、賞与の実績を分けて書き出します。源泉徴収票の「支払金額」1つでは、月給ベースの提示と比べられません。内訳があると「基本給ベースでは現職を下回ります」と、数字で説明できます。
  2. 求人票に書かれた賃金の範囲 — 労働者を募集する側は、業務の内容と賃金、労働時間などの労働条件を明示することになっています(出所: e-Gov法令検索 職業安定法 第5条の3)。求人票の下限と上限は、相手が自分で出した数字です。「求人票では◯◯万円までとありましたが、提示は下限に近い額でした。どの点が評価に足りなかったか教えていただけますか」は、他社の名前を出さずに聞ける質問です。
  3. 入社後の早い時期に貢献できる具体 — 面接で話した経験のうち、入社して数か月以内に使えるものを1つに絞ります。「◯◯の経験があるので、◯◯の立ち上げ期から入れると考えています」という形です。金額の根拠を、自分の都合ではなく相手の業務に置きます。

私の場合、1は手元にありました。給与明細も源泉徴収票も持っていたのに、面談の前に内訳を書き出していませんでした。2は求人票を見ていたのに、提示額と並べていませんでした。3だけは面接で話した内容がそのまま使えたはずでした。3つのうち、使ったものはゼロです。

3つの材料の使い方。言い方の型

材料があっても、出し方で伝わり方が変わります。他社を引き合いに出す言い方と、自分の材料で言う言い方を並べます。

他社を引き合いに出す言い方(使わなかった)

「他社様から◯◯万円のご提示をいただいており、同じ水準をお願いしたいです」。相手は金額を見て動く人だと受け取ります。書面を求められたら終わります。

自分の材料で言う言い方

「ご提示ありがとうございます。前向きに考えています。1点だけご相談で、現職の基本給が◯◯万円で、固定残業代を除くとご提示は現職を下回ります。求人票の範囲の中で◯◯万円までご検討いただくことは可能でしょうか。◯◯の経験は入社後すぐに活かせると考えています。難しければご提示の額で承諾しますので、その旨お伝えください。」

3つの材料が1つずつ入っています。現年収の内訳、求人票の範囲、早期に貢献できる具体。他社の名前はどこにも出てきません。最後の一文があると、間に入る人が動きやすくなります。この言い回しの段階ごとの型は、年収は、入社したあとでは上がらないに書きました。

「複数社から評価をいただいており」までなら言えるか

他社の内定は無い。ただ、選考は複数社で進んでいる。この状態で「複数社から評価をいただいており」と言えるかは、線を引いておいたほうがよいところです。

  • 言える範囲 — 実際に選考が進んでいる会社があるなら「他社の選考も進んでおりますが、御社が第一希望です」まで。事実であり、金額の話でもありません。
  • 言えない範囲 — 「評価をいただいており」を、内定や提示額があるように聞こえる言い方で使うこと。相手は内定があると受け取り、「条件を教えてください」と続きます。そこで答えられなければ、最初の話に戻ります。
  • 言わなくてよいこと — 選考中の社名。聞かれても「お答えは控えさせてください」で構わないと考えています。答えないことは嘘ではありません。

私の場合、内定が出た時点で他社の選考は残っていませんでした。「複数社から」の一言も使えませんでした。それでも上の3つの材料は、選考の状況に関係なく持てるものでした。落ちた記録の全体は二桁落ちてから、やっと1社に決まった話に書いています。

提示を受ける前に、確認しておくこと

面談の場で考え始めると、私と同じ答え方になります。前日までに手元に置いておくものです。

  • 現職の基本給、固定残業代(何時間分か)、賞与の実績を、それぞれ数字で書き出した
  • 応募した求人票の賃金の下限と上限を控えた
  • 入社後の早い時期に使える経験を1つに絞り、面接で話した内容と揃えた
  • 下限の額を決めた。聞かれる前に決めておく
  • 提示を受けたら持ち帰る、と決めた。返事の期限は、その場で相談する
  • 他社の状況を聞かれたときの答えを、事実の範囲で1文にした

面接で聞かれて詰まった質問と、その準備の仕方は面接で詰まる質問は、だいたい3つに絞れるに書きました。年収の質問も、詰まる質問の1つでした。

よくある質問

他社の社名を聞かれたら、どう答えますか

「選考中の会社名はお答えを控えさせてください」と答えて差し支えないと思います。内定が無ければ「現時点で他社からの提示はありません」と答えて構いません。無いことを隠すより、上の3つの材料で話を進めたほうが、聞かれたあとが楽です。私は内定が1社だけだと正直に伝えました。それで条件が下がったという感触はありませんでした。下がった原因は、自分で「現状維持でも」と言ったことのほうでした。

辞退をちらつかせるのは、有効ですか

本当に辞退できる状態でないなら、使わないほうがよいと考えています。「◯◯万円でなければ辞退します」と言えば、相手は「では残念ですが」と返せます。1社しか内定が無いときにこれをやると、戻る場所がありません。「難しければ提示額で承諾します」と先に言っておくほうが、相手は上に掛け合いやすくなります。

盛ってしまったあとに、訂正できますか

早いほうがよいと思います。承諾前なら「先日お伝えした他社の条件は、正確ではありませんでした。現職の条件をもとに、改めてご相談させてください」と伝え直せます。入社後に源泉徴収票で食い違うより、その場で訂正するほうが、失うものは小さいと考えています。

注意していただきたいこと

これは私1人の経験にもとづくものであり、うまくいくことをお約束するものではありません。効果や結果には個人差があります。求人票の書き方や、提示額をどこまで動かせるかは、業界や会社の制度によって変わります。税や年末調整の手続きは2026年9月時点のもので、ご自身の分は勤務先か国税庁の案内で確認してください。

それでも、他社の嘘を用意するより、現年収の内訳と求人票の範囲を手元に置くという一点は、やっておいて損がなかったと思っています。私はやらずに面談に入り、その差が入社後も残りました。

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