転職で年収を上げたいなら、先に知っておいたほうがいいことがあります。
年収を動かせるのは、入社する前の1回だけです。
入ったあとの昇給は、会社の制度の中で決まります。多くの場合、1年で数パーセントです。転職のときに10万円譲ると、その差はしばらく残ります。あとから埋まることもありますが、埋まる前提で下げるのはやめておきました。
私は一度、この入口で失敗しました。そのあとに作った、交渉の順番と言い方を書きます。
いちばんやってはいけないこと
先に、やってはいけないことから書きます。
「希望年収はいくらですか」に、その場で考えて答えることです。
私はこれをやりました。聞かれて、少し考えて、「現状維持でも構いません」と答えました。丁寧に答えたつもりでした。
新卒で入ったのはコンサルティング会社で、20代のうちに投資会社へ移りました。前の仕事では、相手が意思決定をするための材料を並べて渡すのが毎日の作業でした。それなのに、自分の年収については材料を1つも用意しないまま口を開いて、その場で出た言葉がそのまま提示額になりました。
一度言った下限が、そのまま提示額の上限になります。
こちらから下げた金額を、相手が上げ直してくれることはありませんでした。相手に悪意があったわけではありません。こちらが「それでいい」と言ったからです。
対策は1つだけです。聞かれる前に決めておく。
段階① 応募の前に、幅を決める
交渉は3つの段階に分かれます。まず、応募する前です。
ここでやるのは幅を決めることです。1つの金額ではなく、下限と上限を決めます。
- 下限は、いまの年収と同額以上。下げる理由が自分の中にあるなら別ですが、なんとなく遠慮して下げるのはやめます
- 上限は、私はいまの年収の1.2倍くらいに置きました。相場としてこの数字がある、という話ではありません。根拠のない数字を出すと、そこで話が止まります
そして、その幅に一言添えます。
金額だけで決めるつもりはありません。
この一文があるかないかで、伝わり方が変わりました。ないと、条件だけで動く人に見えます。
段階② 面接で聞かれたときの答え方
次に、面接や面談で聞かれたときです。ここには型があります。
幅で答えて、理由を1つ添えて、最後に含みを残す。
◯◯万円から◯◯万円で考えています。現職が◯◯万円であることと、◯◯の経験を早い段階で活かせると考えているためです。ただ、金額だけで決めるつもりはありませんので、業務の内容とあわせて相談させていただければと思います。
ポイントは3つです。
- 現年収を正確に言う。盛ると、入社の手続きで出す前職の源泉徴収票と食い違うことがあります
- 理由を業務に結びつける。「生活のため」ではなく「この経験を使えるから」
- 言い切らない。含みを残すと、相手も動きやすくなります
段階③ 提示が出たあと
ここが本番です。オファーの金額が出たあとです。
その場で即答しない
ご提示ありがとうございます。持ち帰って検討させていただき、◯日までにご回答いたします。
これだけです。3日から1週間もらいます。即答しないことは失礼ではありません。むしろ、その場で「はい」と言うほうが、検討していないと受け取られます。
上げてほしいときの言い方
ご提示いただいた条件で前向きに考えています。1点だけご相談で、◯◯万円までご検討いただくことは可能でしょうか。現職が◯◯万円であることと、◯◯の部分で早期に貢献できると考えているためです。難しければ提示額で承諾しますので、その旨お伝えください。
最後の一文を落とさずに添えてください。これがないと、間に入る人は交渉が決裂するリスクを嫌がって、動いてくれません。
エージェントに何を任せて何を自分で持つかは、転職エージェントは使うべきかに書いています。年収の下限は、任せてはいけない側です。
やらないほうがよかったこと3つ
- 他社の内定額をカードとして使う — 金額で動く人だと判断されます。使うなら「他社も見ていますが、御社が第一希望です」まで
- 入社後に交渉すればいいと考える — 入社後の昇給は制度の中で決まります。私の場合、入口の差はそのあとも長く残りました。辞めると伝えたあとに条件を出されたときの見方は内定が出てからが本番だった。退職交渉と引き止めに書きました
- 提示された金額だけを見る — 固定残業の有無、賞与の実績、昇給の仕組み。ここを確認しないと、提示額が高くても手取りが下がることがあります
書面で確認する項目
決まったあとの話です。
口頭で言われた条件は、書面かメールに残してもらってください。「聞いていた話と違う」の大半は、書面にしなかったことが原因でした。
- 基本給と固定残業代の内訳(金額、何時間分か、その時間を超えた分の割増賃金が別途支払われると書かれているか)
- 賞与の支給実績(規定ではなく、実際に出ている月数)
- 昇給の時期と仕組み
- 試用期間中の条件が、本採用と違うかどうか
- 想定される残業時間
聞きにくいと感じるかもしれません。ただ、これは入社後に毎月効いてくる数字です。聞いたことで評価を下げる会社なら、入る前に分かってよかったと考えています。
交渉というより、説明でした
交渉というと、押し合いのように聞こえます。私もそう思っていて、それが苦手で黙っていました。
実際にやってみると、やっていることは説明でした。自分がいくらの価値だと思っていて、その根拠が何かを、言葉にして渡すだけです。
根拠を言葉にするには、その前段が要ります。自分が何を判断してきたかを整理する作業です。それは書類を作るときと同じ工程でした。通る書類と通らない書類の、たった1つの違いで書いた「状況→判断→行動→結果」が、そのまま交渉の根拠になります。
注意していただきたいこと
これは私1人の経験にもとづくものであり、うまくいくことをお約束するものではありません。効果や結果には個人差があります。業界や会社の制度によって、動く幅も変わると思います。この記事で書いているのは額面の金額です。手取りは税や社会保険料の分だけ少なくなるので、ご自身の分は勤務先の給与担当や国税庁の案内でご確認ください。
それでも、聞かれる前に下限を決めておくという一点だけは、やっておいて損がなかったと思っています。
言い回しを、そのまま使える形にしました
この記事で書いた3段階の言い回しを、場面ごとのスクリプトにまとめています。職務経歴書テンプレート、想定問答50問、落ちた理由の分類表もつけた4点セットです。
二桁落ちてから作った、転職の実務セット(9,800円・note)→
買い切りです。効果や結果には個人差があります。


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