退職の引き止めの断り方。報告の形で伝えた4つの順番

内定が出てからが本番だった。退職交渉と引き止め 働き方

内定の連絡をもらった日、これで終わったと思いました。

終わっていませんでした。そのあとの、退職を伝えるところから最終出社日までが、いちばん判断が鈍った時期でした。

引き止めは、説得の勝負ではなく順番の問題でした。誰に、いつ、どの順番で言うか。ここを間違えると、条件を出されたときに、その条件を冷静に見られなくなります。

私が実際にやった順番と、そのとき言った言葉を書きます。

引き止められて迷ったのは、心が揺れたからではなかった

新卒で入ったコンサルティング会社から投資会社へ、20代のうちに転職しました。書類の段階から落ち続けたうえでの転職でしたが、前の仕事が嫌いだったわけではなかったので、「不満がないなら残れるだろう」という引き止めに、理屈で返す言葉を持っていませんでした。だから不満の話ではなく、最後まで関わり続けたいという、やりたいことの話として伝え、相談ではなく報告の形で退職日を決めました。

辞めると伝えたあと、私は数日間ずっと迷っていました。当時は自分の意志が弱いのだと思っていました。

あとから振り返ると、原因はそこではありませんでした。伝え方が「相談」の形になっていたので、相手が条件を出す余地を残してしまったのです。

余地を残すと、相手は仕事として条件を作ってきます。作られた条件が目の前に置かれると、こちらは検討せざるを得なくなります。検討している間に、内定先の入社日は近づいてきます。

この状態を作らないために要るのが、順番でした。段取りの話であって、意志の強さの話ではありません。

最初に伝えるのは、直属の上司ひとりだけ

私が決めていたのはこれだけでした。最初に言うのは、直属の上司ひとり。それ以外には、上司に伝えるまで一切話しません。

先に同僚に話したくなる気持ちはありました。近くで働いている人にだけ黙っているのは、後ろめたいからです。

それでもやめました。上司が人づてに知ると、話が「辞めるかどうか」ではなく「なぜ自分が最後に聞いたのか」に移ってしまうからです。そうなると、本来しなくていい説明が増えます。

伝える順番は、こう並べました。

  1. 直属の上司(最初。ここが起点になる)
  2. 上司の上司や人事(上司が決めた範囲・タイミングに任せる)
  3. 引き継ぎの相手・チーム内
  4. 社外の関係先(誰にどう言うかは、上司と決めてから)

タイミングは、内定を承諾して入社日が固まってからにしました。承諾前に伝えると、引き止められている最中に内定先への返事の期限が来ます。二つの交渉を同時に抱えることになるので、これは避けました。

場は、立ち話ではなく時間をもらいました。「少しお時間いただけますか」だけで十分でした。

「相談」ではなく「報告」の形で言う

ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。

最初の一言を、相談の形にするか報告の形にするか。この一言だけで、そのあとの数週間の性質が変わりました。

(相談の形)実は転職を考えておりまして、一度ご相談したいことがあるのですが……

(報告の形)お時間ありがとうございます。退職させていただきたく、ご報告です。次が決まっておりまして、◯月◯日を最終出社日で考えています。引き継ぎの進め方をご相談させてください。

言っている事実は同じです。違うのは、相手が受け取る役割です。

相談の形で言うと、上司の仕事は「どうすれば残ってもらえるか」を考えることになります。これは上司が悪いのではなく、役割としてそうなります。良い上司ほど、真剣に条件を探しに行ってくれます。

だから、話し始める前に自分の中で二つに分けておきました。

  • 決定として言うこと — 退職すること/次が決まっていること/入社時期
  • 相談として言うこと — 最終出社日の具体的な日付/引き継ぎの順番と範囲/社内外への伝え方

相談する部分をきちんと用意しておくと、報告の形でも突き放した感じになりません。私は最初、報告の形=冷たい言い方だと思っていました。実際は逆で、引き継ぎの案を持っていったことで、話がすぐ実務に進みました。

転職先の社名や業種は、聞かれても答えませんでした。「まだ公にしていないので」で通ります。ここを答えると、比較の話が始まります。

退職日は、入社日から逆算して決める

伝える日を先に決めてはいけませんでした。起点は、内定先の入社日です。そこから戻して並べます。

  1. 入社日(内定先と合意した日)
  2. 最終出社日(入社日との間に、引っ越しや手続きの余裕を置く)
  3. 有給の残日数を、最終出社日の直前に当てる
  4. 引き継ぎに必要な日数を、その前に置く
  5. ここまで足した日数の分だけ手前が、上司に伝える日

順番として大事なのは、有給より先に引き継ぎの日数を置くことでした。私は最初、残っている有給を全部使う前提で組んで、引き継ぎが入らないことに気づきました。

退職の申し出をいつまでにすべきかは、「◯週間前」という言い方をよく見かけます。ただ、この点は民法にも定めがあり、勤務先の就業規則や雇用契約にはそれと違う日数が書かれていることもあります。どちらがどう優先されるのかは、私が判断できる話ではありませんでした。一般に言われている日数をそのまま当てはめず、私は自分の会社の規程を先に読み、そのうえで上司と日程を相談しました。

ここは法律に関わる部分なので、この記事の情報で判断せず、勤務先の規程と、必要なら専門家に確認していただくのが安全だと思っています。

退職届などの書面をいつ出すかも、口頭で伝えたあとに上司と決めました。先に紙を出すと、順番が飛んで話がこじれることがあります。

引き止めの3パターンと、私が返した言葉

引き止めは、だいたい3つの形で来ました。中身は違っても、返し方の型は同じです。

①お礼を言う ②結論は変わらないと1文で言う ③日程の話に戻す。この3つだけです。反論はしません。反論すると議論になり、議論になると長引きます。

パターン1:昇給・条件の提示

いちばん多いのがこれだと思います。金額や役割を、その場か後日に提示されます。

(例)ありがたいお話です。評価していただいていたと分かって、正直うれしいです。ただ、金額で迷って出した結論ではないので、そこは変わりません。◯月◯日の最終出社で進めさせていただけますか。

ここで「いくらならどうか」という話に一度でも乗ると、交渉が始まります。始まったら、こちらは断り続ける役になります。私は金額の数字には触れないようにしました。

パターン2:部署異動・担当変更の提案

「別の部署なら希望に近いのでは」という提案です。悪意はなく、本当に用意してくれることもあります。

(例)提案していただけるのは光栄です。ただ、今回は社内の配置を変える話ではなく、環境そのものを変える判断をしました。ご迷惑をおかけしますが、変わりません。

私が見ていたのは、その提案に時期と中身が入っているかでした。「そのうち」「調整してみる」の段階のものは、まだ存在していない条件です。存在していない条件と、書面で出ている内定を並べて比べることはしませんでした。

パターン3:情に訴えられる

「今抜けられると困る」「せっかくここまで育てたのに」。これがいちばん効きました。事実として迷惑をかけるので、否定できないからです。

(例)ご迷惑をおかけすることは分かっています。だからこそ、引き継ぎは最後まで責任を持ってやります。◯◯と◯◯は手順書にして、◯月中にお渡しします。抜けの確認もお願いしたいです。

言い返さず、謝ったうえで、具体的な作業の話に移します。感情の話に、作業の予定で応える。これで会話が前に進みました。相手も、困っているのは事実なので、手が打たれるなら受け取ってくれます。

カウンターオファーを受けるかどうかの、3つの基準

私は受けませんでした。ただ、受けるのが間違いだとは思っていません。判断するときに見た基準を3つ書きます。

  1. 書面になるかどうか。口頭の提示のままなら、後から確認する手段がありません。書面にできない条件は、まだ条件になっていないと考えました
  2. 辞めたい理由が、その提示で消えるかどうか。理由が金額でないなら、金額を上げても理由は残ります。私の場合はここで答えが出ました
  3. その条件が、なぜ今出てきたのか。辞めると言う前に出せた条件だったのなら、なぜ出ていなかったのかを考えました

もうひとつ見ていたのは、上がった分がそのあとどう扱われるかです。社内の昇給は制度の中で決まるので、特例で上げた分が次の評価で調整されることもあり得ます。この考え方は年収は、入社したあとでは上がらないに書いたことと同じです。金額を動かせるのは入る前の1回だ、という前提で見ると、カウンターオファーの評価もしやすくなりました。

受けると決めた場合も、内定先への辞退の連絡は自分で、早く、はっきり行うほうがいいと思っています。曖昧にしたままにすると、両方に迷惑がかかります。

辞めると決めたあとも、最後まで丁寧にやる理由

辞めると決まると、気持ちはもう外に向いています。私もそうでした。

それでも最後まで丁寧にやったほうがいいと思ったのは、次の理由からです。

  • 同じ業界の人とは、また会います。取引先や関係者として、想像より近い場所で再会します
  • 入社前後に、前職での働き方について確認が入ることがあります。円満に終わっているかどうかは、そこに出ます
  • 自分の記憶に残ります。雑に終わらせた記憶は、次の職場で自信を出すときに邪魔になりました

やったことは3つだけです。担当していた作業を手順書にする。想定される質問を先に書き出して一緒に渡す。最終出社日の挨拶は短くする。

手順書は、きれいに作ろうとすると終わりません。私は「明日この作業を初めてやる人が、詰まる場所」だけを書きました。それで足りました。

ここまでの流れ全体、書類を落ち続けたところから最後に決まるまでは二桁落ちてから、やっと1社に決まった話にまとめています。内定が出てからの数週間は、その中でも別の種類の疲れがある時期でした。

結局、準備しておいたのは3つだけだった

振り返ると、事前に用意していたのは次の3つでした。

  1. 最初に言う相手を、直属の上司ひとりに決めておく
  2. 最初の一言を、報告の形の文章にして用意しておく
  3. 入社日から逆算した日程表を、紙1枚にしておく

この3つがあると、何を言われても戻る場所があります。引き止めに強い言葉を用意する必要はありませんでした。用意していたのは、話を戻す先だけです。

注意していただきたいこと

これは私1人の経験にもとづくものであり、うまくいくことをお約束するものではありません。効果や結果には個人差があります。会社の規模や職場の状況によって、進み方は変わると思います。

退職の手続きや予告の期間については、法律や勤務先の規程に関わる部分があります。この記事は私の記録であって法律の解説ではないので、実際の判断は勤務先の就業規則を確認したうえで、必要に応じて専門家にご相談ください。

そのうえで、最初に言う相手をひとりに決めておくことと、最初の一言を報告の形で用意しておくこと。この2つは、やっておいてよかったと思っています。

言う順番と、そのときの言葉をまとめてあります

この記事で書いた報告の一言や引き止めへの返し方は、年収交渉スクリプトの中に場面ごとの形で入れています。職務経歴書テンプレート、想定問答50問、落ちた理由の分類表もつけた4点セットです。

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